閾の家~SHIKI NO IE~ お引き渡しを終えて

【閾の家~SHIKI NO IE~ お引き渡しを終えて

 

僕はたまにサウナに行く。

「お前の家はやらねえよ」

そんな冗談を、サウナの中で言った。

社会人になると、不思議なぐらい汗をかかない。

学生の頃は、部活だ、体育だ、意味もなく走るだので毎日汗だくだったのに、気づけば“いい汗”より、“冷や汗”の方が増えていた。

そんな僕にサウナを勧めてくれたのが、中学校からの友人だった。

社会人になっても、定期的に飲みに行って、近況報告をして、たまにくだらない話で笑って。

休日になると、二人でサウナへ行くようになった。

サウナって不思議で、熱い部屋に黙って座っているだけなのに、変に本音が出る。

「子どもも生まれたし、そろそろ家を建てようかな」

そんな話を、湯気の向こう側から聞いた。

僕は建築の仕事をしている。

だから自然と、土地探しのこと、住宅会社選びのこと、気をつけた方がいいことなんかを話すようになった。

でも正直、最初から「うちで建ててよ」なんて気持ちは全然なかった。

むしろ逆で、

“せっかくの家づくりだから、いろんな可能性をちゃんと見てほしい”

そんな気持ちだった。

彼は昔から賢い。

合理的で、視野が広くて、ちゃんと学び続けるタイプ。

奥さんも本当にしっかりされていて、「この夫婦、家づくり上手だろうなぁ」と思っていた。

実際、土地も決まり、奥さんの職場の社長さんから、大手ハウスメーカーのトップ営業マンを紹介してもらう流れになっていた。

普通に考えたら、そっちへ進む。

むしろ、進まない理由がない。

だから僕は、「こんな考え方もあるよ」とか、「こういう家づくりも面白いよ」くらいの距離感でいた。

そんなある日、うちの内覧会に「参考までに見に来る?」と軽く誘った。

本当に軽い気持ちだった。内覧会は見てもらえるだけで嬉しい気持ちになる。

でも、そこから流れが変わった。

彼が、ぽつりと言った。

「お前に頼んでもいいかもしれない」

正直、驚いた。

長い付き合いだからこそ、友達同士で仕事をする難しさもわかっていた。

近すぎる関係は、時に遠慮を生む。

逆に甘えも生む。

だからこそ僕は、冗談半分でずっと言っていた。

「お前の家はやらねえよ」って。

でも、彼ら夫婦は、大手ブランドや肩書きじゃなく、

これまでの僕自身と会社の活動を見てくれていた。

事業承継してからの苦労。

上手くいかなかった時期。

それでも前に進もうとしていた姿。

サウナで話した、しょうもない話も、真面目な話も。

全部ひっくるめて、「任せてもいい」と思ってくれたらしい。

それはもう、嬉しかった。

家づくりって、人生の大きな節目だ。

そこを任せてもらえるというのは、ただの“受注”じゃない。

信頼を託されることなんだと思う。

もちろん、仲が良いからこそ気をつけた。

なあなあにならないように。

友達だからこそ、ちゃんと線を引く。

そこを上手に支えてまとめていってくれたのが、スタッフだった。

奥さんとのやり取りも丁寧に進めてくれて、空気感のバランスを整えてくれた。

おかげで、本当にいい家になった。

完成した家には、ちゃんと“その家族らしさ”があった。

家って、完成した瞬間がゴールじゃない。

そこから先、何十年も続く暮らしのスタートだ。

だからこそ、安心して始められることが大事なんだと思う。

引き渡しの日、嬉しそうな友人夫婦を見ながら、ふと思った。

サウナで汗を流していた時間が、

まさか家づくりにつながるなんて。

人生は本当にわからない。

でもきっと、

人との信頼って、派手な営業トークじゃなくて、こういう積み重ねの先にあるんだろうなと思う。

…とはいえ。

きっとまた一緒にサウナへ行く。

今度からは住み心地のリアルの話を聞く側だ。

そう。建築に携わる者は完成後は、お客さんから、いろんなアドバイスをもらう。

アドバイスする側からアドバイスされる方へ。

立場が逆転する不思議な職業。

もちろん、いい話のが嬉しい(笑)

けど、そうでない話は真剣にフィードバックとして受け取る。

これからも、次のお客さんへ想いと技術を繋いでいこうと思う。

託してくれて、ありがとう。